大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和31年(ネ)757号 判決 1957年4月09日

控訴人 西沢阿さよ志

被控訴人 甲斐友巳

主文

原判決を取消す。

本件熊本地方裁判所に差戻す。

事実

控訴人は主文と同旨の判決を求め、当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、控訴人において、「本訴は慰藉料の支払を求めるものである。」と述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(被控訴人は出頭しなかつた)。

理由

本件訴状竝びに弁論の全趣旨によれば、本訴請求原因事実の要旨は、控訴人において、昭和二十四年六月三十日夜被控訴人に情交をいどまれたが、控訴人がこれを拒絶したために、被控訴人から控訴人主張のような暴行傷害をうけたので、これに基因する控訴人の精神上の苦痛を慰藉するために、被控訴人は控訴人に対し金三十万円の支払をする義務があるので、その内金五万円の支払を求めるというのであり、又さきに控訴人が被控訴人に対し提起した前記不法行為に基づく傷害のため、稼働より得べかりし収入を失つたことを請求原因とする損害賠償請求の前訴が、請求を棄却され、控訴人敗訴の右判決が確定したことも、控訴人の自陳するところではある。しかしながら、判決の既判力は、判決主文に包含するものに限り、すなわち、訴訟物たる権利又は法律関係の存否に関し現に直接判断の結論のみについて生ずるものであつて、既判力を生ずる訴訟物は請求原因によつて特定せられ、その請求の内容及び範囲は請求の趣旨によつて限定せられるものであるから、よしや同一の事実関係に基づくものであつても、その請求の原因及び趣旨によつて特定され限定された請求にして別異である場合には、その別異の請求にまで、既判力が及ぶものではない。しかして、本訴は前記のとおり慰藉料の請求であるのに対し、前訴は傷害による収入喪失の損害賠償の請求であつて、この無形と有形の損害は、その基本の不法行為こそ事実関係として、同一であるが、その請求原因及び趣旨においては全く別異の請求であり従つて単に有形的損害賠償請求権を否定した前訴の判決の既判力は、前訴においては、その請求原因にもまた趣旨にも存しなかつた本訴の慰藉料の請求にまで及ぶものではない。原審が被控訴人の抗弁を認容した本訴を不適法として却下したのは失当であつて、その限りにおいて本件控訴は理由がある(もし、被控訴人の主張を既判力の抗弁と解し、それを正当として認容する場合には、本案について請求棄却の判決すべきものである)。

よつて、民事訴訟法第三百八十八条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原国朝 二階信一 秦亘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例